
「マンション管理士に相談したいけれど、毎月の顧問料を払い続ける余裕はない」
「普段の理事会運営は自分たちでできる。難しい問題が起きたときだけ専門家に相談できないだろうか」
小規模マンションの管理組合から、このような相談を受けることがあります。
結論からいえば、マンション管理士との付き合い方は、毎月の顧問契約だけではありません。
最初に一定期間の支援を受けて管理組合運営の基礎を整え、その後は自分たちで運営しながら、大規模修繕や長期修繕計画、設備更新など、専門的な判断が必要になったときだけスポットで依頼する方法もあります。
今回は、東京都世田谷区にある37戸のマンションで、約11年間にわたり当社と「必要なときに専門家を活用する関係」を続けている事例をご紹介します。
このマンションから最初にご相談をいただいたのは、約11年前です。
当時、大きな課題となっていたのが、機械式駐車場の空き区画でした。
機械式駐車場は、利用者が減っても保守点検費や修繕費が発生します。
さらに年数が経過すれば、部品交換や設備更新にもまとまった費用が必要になります。
駐車場使用料収入は減っているのに、維持費はかかり続ける。
この状態を放置すると、駐車場会計だけでなく、管理組合全体の財務を圧迫しかねません。
そこで検討したのが、機械式駐車場の一部を撤去して平面駐車場へ変更する計画でした。
平面化することで、それまで機械式駐車場に収まらず外部駐車場を利用していた大型車にも、マンション内へ戻ってきてもらうことができます。
当時の理事長は問題意識が非常に高く、駐車場を改修した場合の収支シミュレーションも自ら詳細に作成していました。
しかし、合理的な計画だからといって、管理組合で簡単に賛成を得られるとは限りません。
一部の区分所有者からは、
「このマンションは全戸分の駐車場があることが売りだった」
という理由で、機械式駐車場を減らすことに消極的な意見が出ました。
マンション管理では、このような場面が珍しくありません。
数字上は合理的な計画でも、これまでの経緯や区分所有者それぞれの考え方があるため、理屈だけでは前に進まないことがあります。
そこで当社が第三者の専門家として加わり、
「理事長だけが言っている話ではない」
「専門家が確認しても、この方向が妥当である」
という客観性を加えることで、管理組合内の理解を深め、最終的に駐車場改修工事の承認を得ることができました。
結果として、この機械式駐車場の改修にかかった費用は、約4年間で回収することができました。
その後は、年間約60万円(大型車からの収入増分)が純増になっています。
さらに、このとき駐車場だけでなく管理費全体の見直しも支援し、年間約180万円の支出削減を実現しました。
つまり、増収と支出削減を合わせると、年間約240万円の収支改善です。
37戸という小規模マンションにとって、この効果はかなりインパクトのあるものでした。
また、それまで十分に見直されていなかった長期修繕計画についても、築15年目にして初めて本格的な見直しを行いました。
こうした一連の改革に約1年半を要しましたが、区切りがついた段階で、顧問契約はいったん終了しました。
日常的な理事会運営は、管理組合自身で十分に行える状態になっていたからです。
ただし、契約が終わったからといって、専門家との関係まで終わったわけではありません。
ここが、こちらの管理組合の専門家活用の特徴です。
初回の相談の後、約11年間で合計4回、当社との正式な業務契約を締結しています。
つまり、
普段は自ら理事会を運営し、大きな判断が必要になる節目でマンション管理士を使う。
というスタイルです。
こちらのマンションからは、正式な契約期間外にも
「この工事は念のために相見積もりを取った方がよいか」
「管理会社に動いてもらうために、どういう伝え方をすればよいか」
といった相談をちょくちょく受けており、直近では、電気自動車(EV)用充電設備の導入についても電話での相談に対応しています。
「専門家に連絡すると、すぐ費用が発生するのではないか」
と心配される方もいます。
しかし、相談内容によっては、必ずしも正式な契約が必要とは限りません。
例えば、
といった「方向性を確認する程度」の相談であれば、これまでの関係性の中で簡単な助言ができる場合もあります。
一方で、
といった実作業が必要になれば、業務範囲を明確にしたうえでスポット契約を締結します。
重要なのは、自分たちでやれることは自分たちでやって、問題の難易度と必要な作業量に応じて専門家を使い分けることです。
もちろん、すべてのマンションにスポット契約が向いているわけではありません。
特に相性が良いのは、日常的な理事会運営や管理会社との連絡は自分たちで行える一方、重要な場面では専門家の判断を借りたい管理組合です。
例えば、次のようなケースです。
こうした問題は毎月発生するものではありません。
しかし、一度判断を誤れば、数百万円、場合によっては数千万円単位の差が生じることがあります。
また、金額だけでなく、区分所有者同士の対立につながるケースもあります。
「頻度は低いが、影響が大きい問題」に専門家を使う。
これは、限られた予算で運営する小規模マンションにとって、非常に合理的な考え方です。
マンション管理士を利用するというと、
「管理会社をチェックするための人」
「管理会社と交渉するための人」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
もちろん、そのような役割を担う場面もあります。
しかし、管理会社とマンション管理士は、本来、競合する存在ではありません。
管理会社には、
など、マンションを日々運営するための継続的な仕事があります。
一方でマンション管理士は、
など、管理組合側に専門的・中立的な判断が必要な場面を補う役割を担うことができます。
管理会社に、通常の管理委託契約の範囲を超えた調査、比較検討、交渉、資料作成まで無制限に求めれば、管理会社側の負担も大きくなります。
特に現在は、管理業界全体で人手不足が進み、管理会社側も「どのマンションでも同じように手厚く対応する」ことが難しくなっています。
だからこそ、日常管理は管理会社、特別な課題は外部専門家という役割分担を考えることも重要です。
37戸程度の小規模マンションでは、毎月一定額を支払って専門家と顧問契約を続けることが難しいケースもあります。
だからといって、理事長や理事だけで、あらゆる問題を抱え込む必要はありません。
最初は一定期間、専門家の支援を受けて管理組合運営の基礎を整える。
運営が安定したら、自分たちで管理する。
そして、
大規模修繕、長期修繕計画、修繕積立金、設備更新、管理会社との契約問題など、大きな判断が必要になったときに、再び専門家を使う。
世田谷区の37戸のマンションは、この方法で約11年間、当社との関係を続けています。
小規模マンションに必要なのは、必ずしも「専門家を常に置くこと」ではありません。
むしろ大切なのは、
何か起きてから専門家を探すのではなく、管理が安定しているうちに「困ったときに相談できる専門家」との関係をつくっておくこと。
それも、小規模マンションが無理なく長く運営を続けるための、一つの有効な方法だと考えています。
Q. マンション管理士とは毎月顧問契約を結ばなければいけませんか?
いいえ。マンション管理士との契約方法に決まった形はありません。毎月の顧問契約だけでなく、大規模修繕、長期修繕計画、管理規約改定など、必要な業務だけをスポットで依頼する方法もあります。
Q. 小規模マンションでもマンション管理士を依頼するメリットはありますか?
むしろ小規模マンションでは、限られた管理組合予算を有効に使うために、重要な課題だけ専門家へ依頼する方法が適している場合があります。数百万円以上の支出を伴う工事や、将来の修繕積立金に影響する判断では、専門家費用以上の効果が得られるケースもあります。
Q. 管理会社がいるのにマンション管理士へ相談してもよいのでしょうか?
問題ありません。管理会社は日常的な管理業務を担い、マンション管理士は管理組合側の専門的判断を補うという役割分担が可能です。管理会社と対立するためではなく、管理会社だけに負担を集中させないために外部専門家を活用する考え方もあります。