5.専業で働くマンション管理士になるための「7箇条」とは?
では、問題意識の高い理事さんに認められ、管理組合から求められるマンション管理士になるには一体どうしたら良いのでしょうか?
何とか苦労してここまでたどり着いた私の、そして自戒の念も込めた「7箇条」を挙げてみます。
はじめの5つは「マインド」、あとの2つは「スキル」です。
1)聞き上手である(カウンセラー的な側面)
まずはお問い合わせ頂いたお客様(多くは理事長さんや理事さん)の話をしっかりと受け止めることが大切です。
聞き上手はお客様に安心感を与え、信頼を勝ち得ることができ、マンション管理士からの対案に耳を傾けてくれるでしょう。
普段おしゃべりな方は、お客様95:自分5、くらいの会話量と意識して相談に臨むと、結果的にお客様80:自分20、くらいの適度な聞き役となれます。
2)説明が丁寧でわかりやすい(通訳的な側面)
管理組合運営の素人である相談者に対し、専門用語を使わずシンプルに説明できること、これも大切です。
特に、最初の理事会や住民説明会・プレゼンテーションといった「複数の所有者(組合員)」が集まる場では「丁寧・わかりやすい・専門用語を使わない」ことはマンション管理士に必要な要素です。
素人の組合員と管理・修繕業界の専門用語とを繋ぐのは、あなたの「通訳力」にかかっています。
通訳するためには、専門用語を普段から正確に理解し、平易な言い方に変える習慣をつけておく必要があります。
また、自分をわかりやすく売り込む「営業」的な意味でも、このマインドは必要です。
3)中立心を保ち信念と情熱を持って対応する(ファシリテーターマインドを持つ世話役的な側面)
マンション管理士は管理組合からの依頼を受けマンション管理運営の健全化をサポートすることが仕事です。従って、管理会社の「業界論理優先」の発想には真っ向から反論する必要があります。
しかし一方で、管理会社の行動が正しいものであったときは適性に評価することも重要です。
管理会社を穿った見方で攻撃するような理事さんには、丁寧に説明し管理会社の対応を理解してもらう必要があります。
また大人しい理事さんや居住者といったマイノリティーの声にも耳を傾け、マジョリティーへ理解を求めることもマンション管理士の責務だと考えます。
中立心は、常に管理組合を客観的な視点で捉え、全体利益の最大化ポイントを意識し続けるために必要なマインドです。
4)夢を熱く語ることができる(少年・ロマンチスト的な側面)
マンション管理業界は他業界に比べ目立たず、華やかさがなく、取り扱い額も比較的小額で、管理組合が解散しない限りエンドレスです。そのため、全体的に保守的で安定志向、将来よりも足元を見ながら歩くような面があります。
しかしマンション管理士として管理組合から相談を受けたからには、地域で一番「住み心地が良く」「不動産価値も高く」「人に自慢できるような」マンションにしたい、というくらいの気概がないと、管理会社と同じようなマインドに流されてしまいますし、仕事をしていても面白くありません。
夢やロマンを語ることができなければ、お客様は「あなたに任せてみよう」とは思われないでしょう。
また、これだけ夢やロマンをお客様に語るということは、それだけ好奇心を持ち、日々勉強しなければなりません。常に向上心を持って失敗を恐れず前進するような気持ちが大切ですし、お客様に伝わります。
ただ単に安定したい方は、管理会社へ転職することをお勧めします。
5)マンション管理に関わる仕事は断らない(チャレンジャー的側面)
特に実務経験がないマンション管理士にとって最も怖いのは、「やったことない仕事の相談があった時」ではないでしょうか。
もしできなかったらどうしよう。
失敗したらどうしよう。
マイナスの評判にならないだろうか。
このような不安感や恐怖感が頭をよぎるかもしれません。
しかし仕事を断っていたらいつまでたっても仕事が覚えられません。どんなに仕事のできる人間でも、最初は素人からスタートしているのですから、誰でも同じです。
仕事は断らずに「まずは請ける」これで良いと思います。
そして請けてからどう解決するか考えましょう。
一から本を読んで勉強するか、その分野に強い人材を探し協力を要請するか、、、色々と考えることはできますが、一つ言えることは、仕事を請けることで必ず肥やし=経験=自信になる、ということです。
もしどうしてもできない仕事だった場合には、できそうな他者を紹介するなり謝罪するなりし、管理組合の時間的ダメージを最小化してあげましょう。
6)管理会社と管理組合(理事会)経験・ネットワークがある(専門家的な側面)
マンション管理の実務、業界の表裏を把握しているマンション管理士は管理組合にとって心強いものです。
特に、大手と中小の管理会社、分譲系と独立系、フロントマンと会計担当、といった毛色の異なる2現場を経験していると、より広範囲の問題を解決できるだけのスキルと視野を持つこととなります。
また、管理組合員や理事会役員の立場や考え方は、管理会社のそれと全く異なり貴重な経験となります。理事長を引き受けて合意形成や引継ぎの難しさやジレンマを体感するのも糧になります。
実際私はマンション管理組合を実感するために中古マンションを購入し、理事長職などへの就任を通じ今の仕事につながる貴重な経験をさせてもらいました。
さらに、マンション管理業界だけの経験では、まだまだ視野が狭いし発想が柔軟になりきれないと考えます。
建設業界や不動産業界といった管理に近い業界でも良いし、むしろ業界の慣習を打破したり隙間のビジネスを考えるマンション管理士を目指すのであれば、全くの畑違いの業界経験などがマンション管理士の仕事に好影響を与えることも十分にあります。
それでもマンション管理の実務は広範囲です。
「単に業界や自宅マンション理事長経験がある」ということも大切ですが、もっともっと狭く深い分野にまで踏み込んだ助言も必要になってきます。
そこで、すべて自分で極めるのではなく、各分野に信頼できる専門家のネットワーク網を持ち、あらゆる問題に対しワンストップで対処できる人脈を持つ管理士の方がほうが管理組合にとって価値が高いと考えます。
専門家集団ができると、上記5)のような問題がスムーズに解決できるようになり、実績と力がハイスピードでつくようになります。
7)合意形成サポート力(ファシリテーション能力)がある(仲裁も技術)
マンション管理組合は、
「たまたまそこに希望するお部屋があったから購入した」
以外の共通点が少ない、マンション購入者の団体であり、
「性別・年齢・人種・家族構成・性格・生きてきた環境・考え方・利害」
の異なる人たちで構成される団体でもあり、団結する環境を作るのが本当に難しい組織です。
しかも古き良き日本の「ムラ社会」は、昨今の西欧化と長引く不況・都市化(東京砂漠!?)によりマンションでは崩壊しつつあり、マンションでも人間関係がますます希薄になる傾向を感じます。
だからこそ、合意形成の調整技術はマンション管理士にとって重要だと考えます。
以上、上記7箇条を少しでも多く併せ持つマンション管理士となることで、専業への道が開けてきます。
なおメルすみごこち事務所では、4)のファシリテーターマインドと7)の合意形成サポート(ファシリテーション)能力の向上が目指すべき管理士像として最重要である、と捉えています。
マンションは日本全国で600万戸近く、1マンション当たり平均70戸として8.5万もの管理組合が「ほとんど眠って」います。
しかも毎年理事が入れ変わることで、述べ管理組合数はもっともっと多いです。
マンション管理士の皆さんには、管理組合を少しずつ掘り起こし、専業で楽しく充実したマンション管理士ライフを目指して欲しいと考えます。