
管理会社には適正な対価を、工事・保守・修繕計画は専門家と共に見直しを
「40戸以下のマンションは、管理会社にとって採算が合わない」
最近、このような記事を目にして、不安を感じている小規模マンションの役員や区分所有者も少なくないのではないでしょうか。
実際、近年は人件費やシステム費用の上昇、フロント担当者の不足などを背景に、管理会社から管理委託費の値上げや契約終了を申し入れられるマンションが増え、当社にも多くの相談が寄せられています。
しかし、40戸以下だからといって、必ず管理会社から見放されるわけではありません。
重要なのは、管理会社に何でもやってもらおうとしないことです。
管理会社には、管理委託契約で定められた日常管理を適正な条件・対価で担ってもらう。
一方で、高額な工事の比較検討、設備契約の見直し、長期修繕計画、難しい交渉などは、マンション管理士などの外部専門家を活用する。
そして、管理委託費だけを削るのではなく、管理組合の支出全体を見直して財務に余裕をつくる。
そうすれば、管理会社へ必要な管理委託費を支払いながら、管理組合全体の支出を抑え、無理のない関係を続けることができます。
今回は、東京都足立区にある35戸のマンションで実際に行っている取り組みをご紹介します。
小規模マンションでは、一戸当たりの管理費負担が大きくなりやすいため、管理会社から値上げを求められると、
「これ以上は払えない」
「もっと安くしてもらえないか」
と考えたくなるのは自然なことです。
しかし、管理会社の人件費や業務費まで一方的に削ろうとすると、担当者の訪問頻度や対応品質の低下につながり、最終的には管理会社側から契約更新を断られる可能性もあります。
そこで、私たちが重視しているのが、管理委託費だけではなく「管理組合の支出全体」を見ることです。
例えば、
まで含めて見直します。
そこで生み出した余力を、管理会社への適正な管理委託費や将来の修繕資金へ振り向ける。
これが、管理会社を「干上がらせない」ための基本的な考え方です。
東京都足立区にある35戸のマンションでは、2019年からメルすみごこち事務所のマンション管理士による顧問支援を続けています。
理事会は必要に応じて開催され、おおむね3か月に2回程度のペースで、当社のマンション管理士も参加しています。
ここで重要なのは、マンション管理士が管理会社に代わって日常管理をするわけではないということです。
管理会社は従来どおり、日常的な管理業務を担当します。
当社は管理組合・理事会側の専門家として、
などを支援しています。
管理会社とマンション管理士の役割を分けることによって、管理会社に過剰な負担をかけず、管理組合側にも専門的な判断力を持たせる。
これが、このマンションの運営の特徴です。
このマンションで特に大きな課題となったのが、売主による外壁タイルの施工不良でした。
外壁タイルの不具合が見つかったからといって、売主が当然にすべての費用を負担してくれるわけではありません。
施工状況や責任の所在を整理し、資料を確認しながら交渉を進める必要があります。
管理組合だけで、大手の不動産会社とこうした交渉を行うことは容易ではありません。
そこで当社も専門家として加わり、論点や必要な資料を整理しながら、売主であるK不動産との交渉を支援しました。
その結果、2021年に実施した外壁タイル補修工事について、約7,447万円を売主側の負担とすることができました。
金額が大きな案件ほど、
「本当に管理組合が負担すべき費用なのか」
を最初に確認することが重要です。
単に工事費を安くするだけではなく、そもそもの負担者を整理することも、管理組合の財務を守る大切な仕事です。
大規模修繕工事前、当社が支援を求められたときは1500万円の借り入れをする計画でしたが、事業主との交渉の仕方をアドバイスし、終わってみれば、修繕積立金を借り入れるどころか、残高は2700万円。奇跡の大逆転です。
2026年に完工したインターホン更新工事でも、管理会社から提示された工事案をそのまま採用するのではなく、条件を整理したうえで相見積もりを行いました。
その結果、管理会社の当初提案と比較して、約390万5,000円の削減となりました。
長期修繕計画で想定されていた金額と比較しても、約275万3,000円の削減です。
ここで注意したいのは、相見積もりとは、
「同じ工事をもっと安くしてください」
と複数の会社へ聞けばよいわけではないということです。
工事範囲、仕様、数量、保証内容などの条件がバラバラでは、見積金額だけを比べても意味がありません。
比較できる条件を整えたうえで競争させることが重要です。
専門家が見積条件を整理することで、必要な品質を確保しながら価格を適正化することができます。
大きな工事だけではありません。
毎年発生する保守契約の見直しも、長期的には大きな効果があります。
2024年には、エレベーターの保守契約を、管理会社を経由する契約から保守会社との直接契約へ変更しました。
これにより、
となりました。
機械式駐車場の保守契約についても直接契約へ切り替え、
となりました。
一つひとつを見ると、大規模修繕ほど大きな金額ではありません。
しかし、固定費は毎年発生します。
例えば年間50万円の差であっても、10年間続けば500万円です。
小規模マンションの財務改善では、一度きりの大きな削減と、毎年積み重なる小さな削減の両方を見ることが大切です。
長期修繕計画についても、一般的な修繕周期をそのまま当てはめるのではなく、建物の状態や過去の工事実績を踏まえて見直しました。
その結果、大規模修繕工事については、従来想定していた12年周期から15年周期へ延ばす計画を作成しました。
50年間という長期で考えれば、大規模修繕工事の回数を1回減らせる可能性があります。
もちろん、
「お金がないから、本当はやらなければならない状態だけど、仕方なく3年先送りする」
という話ではありません。
定期的に建物を点検し、劣化状況を確認しながら、必要な部分には適切な補修を行うことが前提です。
建物の状態を見ながら修繕周期を適正化することで、必要な性能を維持しながら、過剰な工事を減らすことができます。
現在は、機械式駐車場についても大きな見直しを検討しています。
長期修繕計画上では、更新費用として約2,300万円が想定されています。
しかし、東京都の補助制度なども活用しながら設備のあり方そのものを見直すことで、約750万円程度に抑える案を検討しています。
実現すれば、長期修繕計画上の想定額と比べて約1,550万円の支出削減になります。
長期修繕計画に金額が載っているからといって、
「将来、その金額をそのまま支払わなければならない」
わけではありません。
工事時期が近づいた段階で、
といった検討をする余地があります。
長期修繕計画は「未来の請求書」ではなく、あくまで将来を考えるための計画です。
支出削減だけが、専門家を活用するメリットではありません。
小規模マンションでは理事の人数が少ないため、一人の役員に知識や負担が集中しやすくなります。
そして役員が交代すると、
「前の理事会では何を検討していたのか」
「なぜこのルールになっているのか」
が分からなくなり、同じ議論を繰り返してしまうこともあります。
このマンションでは、新しく就任した理事に対して、
などを説明するオリエンテーションも行っています。
また、
といった、日常的で細かな問題にも継続して対応してきました。
こうした積み重ねによって、理事会そのものが運営しやすくなり、管理会社とのやり取りもスムーズになります。
これからの小規模マンションに必要なのは、
「管理会社をいかに安く使うか」
という発想ではないと考えています。
管理会社が担う日常管理には、適正な対価を支払う。
その一方で、
といった専門的な分野については、管理組合自身が主体的に判断し、必要に応じて外部専門家を活用する。
そうすることで、管理会社に過剰な負担を押し付けることなく、管理組合全体の支出を合理化することができます。
これが、私たちの考える「管理会社を干上がらせない」マンション管理のあり方です。
管理会社の経営を助けることが目的なのではありません。
管理会社が無理なく仕事を続けられる環境をつくることが、結果として管理組合自身の安定につながるという考え方です。
管理委託費の値上げを求められたとき、
「値上げを認めるか、断るか」
だけを考えてしまうと、選択肢は限られます。
しかし、管理組合全体の支出を見ると、見直せるところはほかにもあります。
この35戸のマンションでも、
と、さまざまな方向から財務改善を進めてきました。
だからこそ、管理会社の適正な値上げについても、管理組合全体の財務の中で考えることができます。
小規模マンションにとって重要なのは、管理会社との価格交渉だけではありません。
限られたお金を「どこに使い、どこでは使わないか」を管理組合自身が判断できる体制をつくることです。
メルすみごこち事務所では、小規模マンションの状況に応じて、継続的なマンション管理士の顧問支援だけでなく、課題を限定したスポット相談にも対応しています。(ただし、この場合は、役員が一定の範囲の実務を担うことが重要になります。)
管理委託費の値上げや管理会社の撤退に不安を感じたら、契約終了を告げられてから慌てるのではなく、管理会社との関係が良好なうちに、管理組合の運営と財務を点検することをお勧めします。
Q. 小規模マンションは管理会社に契約を打ち切られやすいのでしょうか?
戸数が少ないマンションは、管理会社にとって一件当たりの採算を確保しにくい場合があります。ただし、戸数だけで管理会社との契約継続が決まるわけではありません。管理委託内容や管理員勤務時間、建物設備、管理組合の対応状況など、さまざまな要素が関係します。物件の担当者(フロント)が特定のお客様対応に多くの時間を取られているような状況は、管理会社の採算の悪化に直結するので、契約を打ち切られやすい要素であると言えます。
Q. 管理会社から管理委託費の値上げを求められたら、どうすればよいですか?
値上げ額だけを見るのではなく、値上げの理由、業務内容、現在の市場環境などを確認することが大切です。その値上げが妥当なものか、削減できる業務や見直せる条件がないかを判断する材料になるためです。
そのうえで、区分所有者から徴収する管理費の値上げをできるだけ避けるため、管理委託費以外の保守契約や修繕費なども含め、管理組合全体の支出を見直していくことになります。
ただし、管理会社との交渉や支出全体の見直しには専門的な判断が必要になることも多いため、管理組合だけで対応することが難しい場合は、マンション管理士などの専門家に相談することをおすすめします。
Q. 管理会社が提案する工事は相見積もりを取ってもよいのでしょうか?
内容によりますが、高額な工事では相見積もりを検討する価値があります。ただし、単純に金額だけを比較するのではなく、工事範囲、仕様、数量、保証内容などの条件を勘案して比較することが重要です。
Q. マンション管理士の顧問契約では何をしてもらえますか?
管理会社の日常業務を代行するのではなく、理事会側の立場から、管理会社との調整や契約の見直し、修繕工事、長期修繕計画、管理規約、合意形成など、専門的な判断が必要な場面を継続的に支援します。