前回コラム「マンション管理士の「独立起業」を阻む4+1の理由とは」では、マンション管理士の資格を取得してもなかなか飯が食えない人がほとんどである理由・背景を書きました。
では、どうやったらマンション管理士を生業としていけるのか?独り立ちできるようになるのか?収入が上がるのか?
まずは環境面の準備として、自分が起業する前後のケースを一つの参考としつつ「いまから僕が起業するならこうするかな」とアレンジしたものを書いてみます。
大切なことは「マンション管理士として必要な経験を最短で積み、管理会社(フロント担当者)に負けないセカンドオピニオンとしての力を付けて管理組合からの信頼を勝ち取り、経営者として独り立ちするマインドを持つこと」です。
はっきり言って、僕が起業した18年前に比べて、いまは起業・副業がとても簡単でローコストでできる時代ですし、一つの会社にしがみつく時代でもなく、情報は(このコラムのように)探せば一杯あります。僕は起業まで5年かかりましたが、今ならもっとショートカット出来るはずです。ハードルがかなり下がって羨ましいです。
以降に記すことの全部をチャレンジするのは無理にしても、少しでも取り入れて頂ければ、実現が近づくはずです。
なお、ここに書いた内容の一部(ほぼ苦労話)は、僕が経営するマンション管理士事務所のWEBページに「マンション業界をフラフラと渡り歩いてきた男の経歴書」として書いています。
また「今後マンション管理士として活躍するために有望になるであろう仕事」については、次回以降のコラムで書きたいと思います。
最後に、本コラムのタイトルに(20~30代限定)と書いたのは、なるべく起業までの時間をショートカットするためには一定の体力とモチベーションの持続性が必要で、なるべく若いうちに準備したほうが良いことや、一定のITリテラシーが必要なためです。40代より上でももちろん実現可能です。
僕が25~26歳のとき「マンション管理士資格」が創設されることがニュースになり、管理組合のアドバイザーに将来性を感じていた当時、マンション管理士として起業することを決めました。
ただ、実際に起業したのは31歳のときです。この5年の間に行った「起業準備」の最初に取り組んだことが「マンションを購入して区分所有者(=ユーザー側)になること」そして「理事長(管理組合の執行部)に立候補すること」でした。
「広いところに住んでみたい」という思いもあって、自宅(兼起業時における事務所)を想定して、横浜の郊外に築20年、80㎡のファミリータイプのマンションを購入しました。そして購入後に理事長へ立候補し、役員を2年務めることができました。
マンション管理士=管理組合のアドバイザーですから、そもそも管理組合がどのような団体で、どのような課題を抱え、課題を抱えた管理組合を管理会社はどのようにサポートしているのか(いないのか)を、身をもって体験することはめちゃくちゃ重要です。
当時と異なり、いま(2023年現在)は首都圏で不動産バブルですから、都心に近いところでファミリータイプのマンションを購入するのは大変かもしれませんが、ここでは「区分所有者・理事長を体験すること」が重要なのですから、「郊外の(地方の)」「投資ワンルーム」「住まずに賃貸に出す」でも十分目的を達成することが可能です。
首都圏で言えば、国道16号線の外側~圏央道の方まで足を伸ばせば300万円くらいでワンルームマンションが購入できますし、もっと外側でも水戸・宇都宮・高崎といった一定の人口を要する地方都市でしたら、借り手も一定数いて、不動産投資の側面でもリスクが少ないといえます。
そしていまは理事会や総会・管理会社とのやり取りはオンラインです。もちろんマンション管理士になるために現場をよく見て学ぶことも重要ですが、高頻度で物件へ行く必要もありませんし、投資マンションの総会は管理会社のオフィス(ほとんどが東京都内)で行われることが多いので、移動コストもそれほどかかりません。
お金がない人は事業用ローンを組んで(誰かから借りて)でも、まずはマンションを購入して区分所有者になり、理事長を経験することをお勧めします。
なお経験するなら、「副理事長や理事・監事」よりも、権利や責任が重く、管理会社との接点が圧倒的に多い「理事長」一択です。
僕がマンション購入の次に実行したのは「管理会社への転職」でした。
正確には「大手管理会社と中小管理会社」の2社を経験しましたが、一社で十分です。
前回コラムで書いた通り、マンション管理士として食べていくためには「資格の有無」より「業界の知識・経験」つまり「管理組合の課題を解決するための基礎体力」が必要です。この基礎体力を鍛える場として、やはり管理会社へ転職したことは、かなりの近道だったと振り返ります。
管理会社に転職すると、いわゆるフロント担当者として複数のマンション管理組合を担当でき、管理会社からの目線で管理組合を見ることができますし、管理会社の業務内容を体感し深く理解することで、独立後に管理会社と戦うことも、管理会社とお互いの特徴を活かしあって管理組合へ貢献することも可能となります。
管理会社には「2年」、というよりも「担当するマンションの総会から翌年の総会まで一回転+α」を経験することで、管理組合の運営の流れ、管理会社の仕事の流れが体感で俯瞰できるようになります。
なお、管理会社に転職するなら、いわゆるデベロッパーのグループ会社、特に財閥系(三井系、住友系、野村系、三菱系)の管理会社は辞めたほうが良いです。「どのマンションを担当しても客層が一定で、変化に乏しい」ため、マンション管理士として起業後に多種多様な管理組合へ応用が効きづらくなる可能性があります。
むしろ短期集中で、中小管理会社や大手の中でも独立系管理会社への転職をおすすめします。これらの管理会社は、他の管理会社から管理組合の仕事をリプレイスして受注する割合が多く、「様々な年代・タイプ・客層の管理組合を体験」できます。
特に中小管理会社に転職すれば、フロント担当者以外の業務(現場スタッフの採用や研修・夜間の緊急対応など)も担当できる(悪く言えば一人何役もやらされる)可能性が高く、管理会社の仕事や内部事情を短期集中で吸収することができます。
さらに、誤解を恐れずに言えば「マンション管理士として求められる管理組合は、中小・独立系管理会社が受託するようなマンションに多い」ことも、理由にあります。(このあたりは後日のコラムで書きます)
管理会社に就職し、複数のマンション管理組合を担当することで「活きた」知識・経験を身につけることができ、マンション管理士としての基礎体力が短期間で身についていきます。
そもそもマンション管理士として独立起業し、複数の管理組合のコンサルをしている当社のようなマンション管理士がとても少ないし、そもそもマンション管理士事務所の多くが「サラリーマンのような固定給」でなく「業務委託(報酬制)」と考えられ、「即戦力にならないマンション管理士」に固定給を払うことはありません。当社も同様です。
ただ、副業として(気持ちは本業として)「お金はいらない」「理事会や総会へ連れて行ってほしい」と頼めば、入れてくれるところはありそうです。
マンション管理士事務所の側でも、コンサル契約先が増えれば当然ながら人材が必要なわけで、最初は丁稚奉公のマンション管理士でも、力をつけて戦力になっていけば、それに見合った報酬ももらえるようになるでしょう。そして独立起業の暁には「○○マンション管理士事務所に所属の管理士」として、業務委託契約が結べる可能性もあります。そのまま起業せずにその事務所へ所属するという選択肢もあります。
僕が経営するマンション管理士事務所には、現在新人のマンション管理士が2名、ジョインしてから1年を超えた程度の管理士が3名所属しており、力量に応じて少しずつ報酬を増やしつつ、よりコンサル難易度の高い管理組合へも派遣(または先輩管理士に同席)しています。
そして、地方で活躍したいマンション管理士にとっても、いまはオンラインで繋がれる時代であり、当社ではまだ数は少ないものの、オンラインメインでのアドバイスをしている管理組合がありますから、オンラインで理事会や総会に同席し学ぶことも可能です。
管理会社への転職と大きく異なるのは、やはりマンション管理士としての実力やマインドが養われることです。そして独立起業するために必要な「個」としての責任感、つまり(個人事業主であっても)経営者としての覚悟が強まることもメリットではないでしょうか。
前回のコラムに書いたように、管理組合にとって管理会社のようなニーズ商品(ないと困るサービス)であれば、消極的・受動的であっても導入し消費しますが、マンション管理士が提供する「アドバイス・課題解決」というサービスはウォンツ商品(あればなお嬉しいが、なくても致命的に困ることがないサービス)です。
顧客に課題意識が芽生え、管理会社以外のセカンドオピニオンに相談したいと思ったときに、あなたを探しだしてもらう(認知してもらう)必要があります。世の中に自分の存在を知ってもらうこと(広義の営業)が必要です。
マンション管理士は「専門性やコンサル力」つまり目に見えにくい将来の成果を、先にお金を払って買ってもらう仕事です。いくら上記の3つの経験を経て実力をつけても「聞いたこともないマンション管理士に仕事を依頼する」勇気は管理組合にはありません。特に区分所有者に対してマンション管理士の活用を提案する理事会(特に理事長)の立場になれば、マンション管理士の活用は管理組合の予算(公金)から先行投資的に支出する提案なわけですから、推薦してもらうマンション管理士の側にどうしても「一定の知名度(露出度)」が必要になってきます。
僕が起業した31歳のとき、その3年位から個人でブログを書き、Twitterを更新して、自分の言っていることが正しいかどうかは別としてとにかく自分の考え方や思い、ちょっとした業界知識を公開していました。
いま、当時のブログを振り返ると、とても恥ずかしいレベルです(ぜひ当初のブログ記事を見てください)が、恐らく気迫が伝わったのか、これで十分でした。
実際にブログやTwitterで共感してくれた管理組合の理事長とコミュニケーションを取ることができ、仕事に繋がりました。
いまは情報発信ツールのほとんどが無料で作れます。このnoteを含むブログ、SNS(Twitter、facebook、Instagram、LINE、最近復活気味?のmixiなど)や動画(YouTubeやtiktokなど)が無料で使えて、しかもスマホから気軽に情報発信ができます。
もちろんこれらから誘導する先としてのホームページも、やろうと思えば無料で作れますし、有料でも廉価です。
情報を発信し続けていれば、メディアから取材依頼を受けて記事にしてもらえる可能性が出てきます。メディア実績ができれば営業展開もしやすくなります。
僕の場合、まだ顧客が少ない時期に、上述のブログとTwitterを使ってコツコツ自分の考えや発信していたら「ガイアの夜明け(テレビ東京系列)」に取り上げてもらえました。これは大変な幸運でしたが、いまはテレビや新聞だけでなくWEB媒体がたくさんあり、取り上げてもらうことで箔をつけることができます。
情報発信はほぼ無料でできますし、スマホ片手に場所を選ばずスキマ時間にできるので、これを継続しない手はありません。
逆を言えば、この情報発信ができないマンション管理士はほぼ独立開業ができない、と断言しても良いでしょう。
とにかく活きた経験と実績が欲しい!ならこれ。
とにかく「管理組合から無料で仕事を引き受ける」です。
上述の取り組みを行ってきても、仕事の実績がゼロであることには変わりありません。
マンション管理組合の側として「無料で手伝ってくれるなら良いかな」となりやすいでしょうし、「無料だからアドバイスが今一つでも仕方ないし、理事長がやるのは面倒な雑務や管理会社に頼みづらい仕事を無料でやってくれるならありがたい」となりやすく、採用のための合意形成のハードルが格段に下がるでしょう。
マンション管理士としては、無料であっても「管理組合の仕事を受けた実績」が1つ積み上がることはとても大きいです。「仕事の実績がある」と言えることは、2件目、3件目と営業するための強力な武器になります。
若いマンション管理士であれば、年上のマンション理事長は「育ててやりたい」と思うでしょう。
もちろん無料であっても実務経験は身につきますし、頼まれもしない雑用以上の仕事を積極的に引き受けることで、実力アップが早くなります。
マンション管理士の仕事は管理会社のそれと違って、毎日のように雑務があるわけではありません。仕事がないうちは2~3件を無料で引き受けて、ブログやSNSのネタも増やしていくことができます。
お金をもらわなければ副業にもなりませんから、副業禁止の会社に所属していてもできますよね。
「交通費だけでも頂ければ」とケチくさいことを言わず完全無料を提案することが、管理組合に入りやすいポイントです。
マンション管理組合の運営に関する助言は、なるべく幅広くできたほうが信頼されますし、仕事の幅が増えます。例えば修繕工事や設備保守、共用部にかける保険、植栽、清掃、会計、法律知識など、マンション管理士には「浅くてOK」なので広範囲かつ横断的な知識や提案が必要です。しかし幅が広すぎて全部を網羅するのは不可能ですし、中途半端にかじった知識で助言すると、かえって痛い目にあいます。
例えば理事会役員の中に建設会社や設計事務所に従事する方がいた場合、浅い知識で修繕提案したらたちまち見破られてしまいますよね。
管理組合はマンション管理士に「課題を解決してくれる」ことを期待していますが、マンション管理士が独力で解決する必要はありません。
一級建築士などの専門家、設備保守の会社の方、マンション保険に特化した代理店、造園会社、清掃会社、税理士、弁護士など、ちょっと相談に乗ってくれる仲間を作っておけば、鬼に金棒ですよね。
彼らも将来的にマンション管理士を通じて仕事が得られる可能性があれば、無料でも手間賃程度でも助言してくれるはずです。
いまはSNSを通じてこれらの人材といくらでもつながることができる良い時代です。ゆるく繋がれて、一杯飲みに行ける仲間を作っておくことが、独立起業に向けた準備の一つになります。
以上が、マンション管理士として「独立起業・年収アップ」するための環境面における準備内容です。これらすべて、僕が独立起業の前後にやってきたことですが、いまは以前に比べてハードルが格段に下がっていますので、一つまたは全部にチャレンジしてみてください。