以前のコラム「マンション管理士の「独立起業」を阻む4+1の理由とは」では、マンション管理士の資格を取得してもなかなか飯が食えない人がほとんどである理由の最初に
「専売特許(独占業務)の不存在」
つまり、弁護士や税理士など他の士業と異なり「マンション管理士は資格取得=活躍の場が法律によって守られていない」ことを書きました。
僕はマンション管理士として起業したときから今日まで、この「独占業務がないこと」をネガティブに捉えたことは一度もありません。むしろ「倫理的に問題がない範囲で仕事を自由にデザインできる」「独占業務という名の変な縛りがない方がやりやすい」と今でも思っています。
要は「国がマンション管理士のために独占事業を作ってくれるのを待つのでなく、国がマンション管理士資格を創設した趣旨を理解し、管理組合の役に立つことができるサービスを考えれば良い」だけの話です。
そこで、僕の体験として、マンション管理士事務所としてチャレンジしたサービスを挙げてみます。なお、顧客利益を守りながら経営を安定させるという観点で考えると「極力サブスク(報酬を毎月定額で得る)のサービスを考える」または「サブスクのサービスへ結びつくような単発サービス」ように心がけています。
残念ながら、一部に「業者からバックマージン(リベート)をもらうような倫理に反することをやっているマンション管理士」がいますが、それらの行為を厳しく排除する前提で書いています。
最もスタンダードなサービスが「毎回の理事会や総会に出席して助言する」いわゆる顧問契約です。僕も起業したてのころは、経営的な観点で顧問契約をいかに増やしていくかに腐心しました。また、顧客視点に立ったとき、長期に支援することでマンションの資産価値や住み心地を継続的に向上させることができる、と考えます。
そもそもマンション管理組合という組織の最大の弱点は、執行部である理事会(理事長)が短期で入れ替わることによる『継続性のなさ』です。管理会社はこの継続性を補うことを業務にしていませんから、管理組合が継続性を自力で確保できないならマンション管理士が助けることは非常に有益です。
また、外部者の多くが良くも悪くも管理組合のお金を狙っています。「区分所有者から毎月徴収され積み上がっていく管理組合のお金(つまり管理費や修繕積立金)」を目当てに、あらゆるビジネス提案をしてきます。
マンション管理士が、管理組合運営の素人集団である理事会の盾になり、外部者からのビジネス提案を厳しくチェックすることで、最終的にマンション管理士を有償で活用する以上のコストと成果をもたらすことができます。
なお、顧問契約を受託し、契約を継続していくうちにマンションが高経年化してきます。まだ実績はありませんが、区分所有者の高齢化や賃貸化に伴って、理事会役員のなり手が少なくなってきたら、下述の「理事長の代行」や「管理者への就任」へ移行する可能性があります。
ニュースタンダードになりそうなサービスが「理事長代行」や「管理者管理」つまり、マンション管理組合の執行部を区分所有者以外の外部者(つまりマンション管理士)が引き受けるサービスです。
大きく、執行部としての理事会は維持したままプロが「理事長職」に就くのが「理事長代行」、そして執行部である理事会そのものを廃止して、執行役は管理者(プロ理事長)のみとする「管理者管理」の2パターンが考えられます。
2012年に、マンション管理業界を管轄する国土交通省が公式に発表した「マンションの新たな管理方式の検討」というレポートの中で「マンションの組合運営を区分所有者以外の外部者が行うこともあり得る」とし、「マンション管理士」がその担い手の一人として取り上げられたことは、僕のなかではセンセーショナルでした。
もともとマンション法(区分所有法といいます)には「理事長の資格者は区分所有者に限定」していませんでしたが、管理組合の執行部を外部者に担わせることを明確に示したことに意味があります。
僕がこの記事を書いた2023年2月の時点で10件のプロ理事長を受託(契約準備中を含む)していますが、顧客の殆どが「高経年マンション」「投資型マンション」「賃貸化マンション」またはこれらの複合マンションと、理事会役員の積極的ななり手がいない管理組合です。企業でいえば「代表取締役不在」つまり経営的に破綻する可能性が極めて高いマンションといえます。
もちろん僕らマンション管理士が「単に理事のなり手不足を補う」だけでは意味がなく「経営的な感覚」をもって管理組合の運営を回復・向上させることに、仕事を引き受ける意味があると考えますが、少なくともマンション管理士の仕事として有望であることに間違いありません。
こちらも1.2.と同様にサブスク的な要素として「管理組合のお金(特に修繕積立金)を守る」ことを目的としたサービスです。
修繕積立金を守る要素しては
ア)個々の「修繕工事」における妥当性のチェックや工事見積比較・工事中の作業チェック
イ)修繕工事提案の根拠となる「長期修繕計画」のマネジメント
の2つがあります。
ア)は工事発生時の単発業務ですが、イ)は継続的に見ていく必要があるため、アとイを組み合わせて「かかりつけの医者」として、サブスク報酬を得ながら支援することが考えられます。
区分所有者が毎月支払う修繕積立金が無駄なく使われ、値上げリスクを軽減するべくマンション管理士が活躍できる可能性が多くあります。
なお、修繕技術的な視点でマンション管理士が独力で行うにはリスクがありますから、建築士や施工管理技士、設備に詳しい人材とタッグを組んでサービスを提供する必要があります。
管理会社が苦手な仕事とは、例えば「管理規約や細則類の改定(アップデート)」や「植栽の見直しや造園業者の選定支援」など、フロント担当者が行うにはちょっと荷が重いけれど弁護士などの専門家を雇うほどでもない業務は、これに該当します。
また、管理会社がやりたくない仕事とは、彼らの収益モデルである「毎月定額の管理委託料(サブスク)」の範囲外で、かつ管理組合へ別途報酬を請求しにくいような業務であり、かつ(不謹慎ですが)業者から紹介料やリベートが得られないような仕事です。
例えば「管理組合の修繕工事事業で、かつ行政の助成金申請手続きを得られる可能性のある事業」などはこれに該当し、助成金制度をリサーチして申請などの面倒な手続きを支援することは、管理会社はやりたがらない一方で、管理組合にとっては大きなメリットであるため、隙間的に求められる業務と言えます。
管理組合が管理会社に相談できない業務として「管理会社の業務チェック」「管理委託料の妥当性チェック」「委託料以外のコストチェック」「修繕工事提案に対するチェック」などが考えられます。
もともとマンション管理士は管理組合と管理会社とのトラブルが頻発していた時代に、管理組合の側に立ってサポートすることを目的として創設された資格ですから、この仕事はもっとも求められやすいといえます。「管理会社の変更をサポートする」なども仕事の一つです。
なお、10年ほど前までは、平成のデフレ時代を反映して「管理委託費の削減支援ビジネス」が流行っていましたが、いまはその反動や物価高の影響でほぼ不可能です。
マンション管理組合の運営状態、つまり資産としての価値を「見える化」し、かつ個々のマンション管理組合へより良い管理状態への改善を促すことを目的として、2022年に国が「マンションの管理計画認定制度」を、マンション管理業協会が「マンション管理適正評価制度」を、それぞれ立ち上げています。
国は「良い管理をしているマンションを認定する」、マンション管理業協会は「マンションを評価する」と、少しニュアンスが異なりますが、長期的な視点で考えれば「マンション(管理組合)の対外的な信用」につながる仕組みといえます。現に後者は不動産ポータルサイトと提携し、個々のマンションの売出し情報の参考情報として、この評価結果を掲載しています。
これまで外から見ることができなかった「管理組合の運営状況」、企業に例えるなら「経営状態」を、見た目の美しさや立地条件など「不動産としての情報」に追加して比較することができる時代を作ろうとしているわけです。
マンション管理士は、この「マンションの管理計画認定制度」「マンション管理適正評価制度」に掲載するための申請を支援するだけでなく、評点をあげる=対外的な評価を高め資産価値の維持を目指すために不足している項目を改善するコンサルティングを行うことは、一つのサービスになる可能性を秘めています。
以上です。3~6の仕事を入り口(フロントエンド商品)として管理組合から信頼を勝ち得てから、管理組合が1や2のサービスへと移行することにメリットを感じてもらえると、長期に腰を据えて支援ができるようになり、収益性も向上・安定します。
以前のコラム「マンション管理士として独立起業・年収アップするための準備(環境編)」で書いた通り、これらのサービスはマンション管理士一人で行う必要はなく、一級建築士などの専門家、設備保守の会社の方、マンション保険に特化した代理店、造園会社、清掃会社、税理士、弁護士などとSNSで繋がり、仲間を作ってチームとして支援することで、仕事の幅を格段に広げることができます。
『マンション管理士の仕事に独占業務がない』ことは、倫理に反しない限りにおいて、ルールに縛られず自分で自由にサービスを作ることができる、ということです。あまり競合も多くない現在において「人から与えられるのを待つよりも自分でチャレンジしてみたい」方にとっては、とても魅力的な職業だと思います。