
近年、マンション管理の現場において、「海外に居住する区分所有者」との関係が大きな課題となっています。
都市部を中心に、投資目的で取得された住戸や、相続をきっかけに海外在住者が所有者となるケースは確実に増加しています。また、日本人であっても海外赴任や長期滞在により、実質的に国内に不在となるケースも珍しくありません。
こうした状況の中で、現場では次のような問題が現実に起きています。
これらは一見、「海外オーナー特有の問題」に見えるかもしれません。しかし本質はそこではありません。
問題の本質は、「連絡が取れない所有者が存在すること」にあります。
マンションは、個々の専有部分の集合体であると同時に、共同で維持・管理される一つの“仕組み”です。その運営には、迅速な意思決定と継続的な関与が不可欠です。しかし、連絡が取れない状態の所有者が一定数存在すると、その仕組み自体が機能不全に陥ります。
現行の法制度においても、不在者財産管理人制度などの手当ては存在しますが、いずれも手続きが重く、時間や費用の面で実務的とは言い難いのが実情です。つまり、「問題が発生した後」に対応する仕組みはあるものの、「問題を未然に防ぐ仕組み」は十分とはいえません。
そこで重要となるのが、「国内管理人」の選任です。
国内管理人とは、日本国内において当該区分所有者に代わり、連絡の受け皿となる存在です。総会資料の受領、意思表示の補助、緊急時の対応窓口など、その役割は多岐にわたります。
これは、管理組合のためだけの制度ではありません。むしろ、所有者自身の権利を守るための仕組みでもあります。連絡が取れない状態では、議決権の行使や重要な情報の取得ができず、結果として自身の資産価値にも影響を及ぼしかねません。
一部には、「海外オーナーを排除する制度ではないか」との懸念もありますが、それは誤解です。本制度は、所有者の所在や国籍を問うものではなく、「連絡が取れる状態を確保する」という、共同生活における最低限のルールを定めるものに過ぎません。誠実に所有されている方にとっては、決して過度な負担ではないはずです。
また、国内管理人の選任については、単なる努力義務ではなく、規約上の義務として明確に位置付けることが重要です。なぜなら、この種のルールは「守らない人ほど問題を引き起こす」ため、任意の仕組みでは実効性を持ち得ないからです。
そのため当社では、一定の手続きを経てもなお国内管理人の選任がなされない場合には、管理費相当額の違約金を課す仕組みを提案しています。これは制裁ではなく、連絡不能状態により増大する管理負担を、他の組合員との公平性の観点から適切に分担するためのものです。
マンションは「不動産」であると同時に、「共同体」でもあります。
その共同体を維持するためには、「連絡が取れる状態であること」という、ごく当たり前の前提が必要です。しかし、その当たり前が崩れたとき、管理は一気に不安定なものとなります。
国内管理人制度は、その当たり前を確実に担保するための仕組みです。
一見すると細かなルールの一つに過ぎないかもしれません。しかし、この仕組みを整備しているか否かで、将来の管理の質、ひいてはマンションの資産価値に大きな差が生じます。
これからのマンション管理においては、「問題が起きてから対応する」のではなく、「問題が起きない仕組みをあらかじめ組み込む」ことがますます重要になります。
国内管理人の選任義務化は、その第一歩といえるでしょう。