○「中立公平案」は下手すると「何も決められない案」だ
理事会は管理組合の執行部として、総会へ議案上程する中身を検討する役割を担っています。
(理事の仕事に「総会へ上程する議案の案の検討」と管理規約に書かれていると思います。)
やや厳しい言い方ですが、
「理事会がゼロベースで中立の立場を貫き、最後まで組合員の声に耳を傾け、総意を目指す」
という『中立公平案』は、一見して良さそうな感じですが、別の角度から見れば、
『理事会が何も決めることができない』『決めた責任を負いたくない』案、ともいえます。
- 理事会が主体的に提案するだけの自信や根拠がない(リサーチしきれていない)
- 理事会の内部で合意形成ができていない
- 理事会として断定して失敗した時に責任を取れない(取りたくない)」
という見方もできるのです。
理事会で検討している内容が、
「世の中に事例がなく、理事会としてもどうしたらよいか、どこから手を付けたら良いか全くわからない」
ようなケースなら「中立公正案」でも良いでしょう。
でも、大規模修繕工事の議論は間違いなく「理事会主導案」で進めるべきです。
○理事会の仕事は「課題解決の具体案を総会へ上程すること」
理事会主導で進めるほうが良い理由は、
多くの組合員が大規模修繕工事の進め方について正しい判断を下すことは困難であるからです。
大規模修繕工事とは、
- 10数年に一度の「非日常の」イベントであり
- 多額のお金が動くイベントであり
- 専門用語が多くとっつきにくいイベント
です。
理事会役員は、建物や設備の劣化と合わせるように管理会社や我々のようなコンサルタントとの接点によって、否応なしに勉強の機会が与えれることになります。
しかし、情報量が限られた組合員に正しい判断を求めるのは困難です。
正しい判断が困難な多くの組合員の評価軸は、
- プレゼンに来た人の印象(感じ良く誠実そう)
- 見積金額(根拠までわからないから、単純に安すそう)
- 組合員との接点の多寡(なんとなく管理会社が信頼できそう)
- 実績があるかないか(なんとなく大手が良さそう)
という、「根拠のない、本質からブレた」ものになりやすくなります。
民主主義は、民衆が正しい判断ができてこそ活きるのであって、なんとなく印象や見た目・金額で決定することは、「多数決で」「正しくない方向を」選ぶ、というリスクにつながっています。
国の選挙における多くの有権者の投票行動と似ているかもしれません。
○理事会主導で総会決議も「立派な合意形成」である
情報に接する機会が組合員より多い理事会役員が、真剣に考えて一つの方向を決め、組合員へ説明し賛否を求める「理事会主導型」。独裁国家の執行者のように自己の利益を優先し他者を排除しようとするようなことがなければ、多くの組合員の賛同を得て前進させることができます。
事例の理事会は、理事のそれぞれが中立の気持ちで大規模修繕工事に向き合い、恣意的な感情なく検討したい方々です。ですので、まずは理事会が課題へ向き合い、一つの方向を結論づけて、結論づけた理由(根拠)を明確にし、総会で堂々と説明し、賛否を問う、、、というプロセスで進めるべきなのです。
多くの組合員は、大規模修繕工事を控え、どちらの方向に進んで良いのかわからないため、理事会の根拠ある説明や決断に感謝されるでしょう。
「理事会としては、この方向で・このやり方で・この会社で進めるのが最良と判断したので、賛成の方は挙手を」
で良いのです。
合意形成とは、全員へフラットに意見徴収して多数の声を探すことだけでなく、執行部である理事会の提案に導かれる合意形成もあるのです。
どうしても理事会からの提案に反対の組合員には、説明を尽くす必要はありますが、無理に賛反へ誘導することなく、反対の一票を投じていただく権利を行使していただくことが誠意です。
「中立公正案」は下手すると「何も決められない案」になるリスクがあることを知って、理事会運営に臨んでほしいと思います。
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マンション管理・修繕コンサルタント メルすみごこち事務所
マンション管理会社 クローバーコミュニティ
《管理組合の良し悪しが「住み心地」と「不動産価値」に影響を与える時代を創る》
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