テレビ東京「ガイアの夜明け」で管理組合の取り組みが放映された、千葉のブラウシア管理組合。
また、nhk「クローズアップ現代+」で同じく管理組合の取り組みが放映された、イニシア千住曙町管理組合法人。
両マンションともに、管理組合運営の「根幹」の部分の一つ「理事長に仕事を集中させない」「組織力」は見事に共通しています。
「イニシア千住曙町とブラウシアの管理組合運営上の共通点(1)」
一方で、「理事長に仕事を集中させない」「組織力」が出来上がるまでのプロセスは、両マンションで全く異なります。
前回ブログでは、ブラウシアのプロセスを書きました。
「イニシア千住曙町とブラウシアの管理組合運営上の共通点(2)」
イニシア千住曙町管理組合法人は、私がコンサルタントとして支援に入った当初、一人の「問題意識の持ち方と能力・発言力の突出した理事長」が奮闘していました。
誤解を恐れずに言えば「君臨していた」と言った表現が合っているかもしれません。戦国時代で言えば「織田信長」でしょうか。
新築入居時の第1期から2期にかけては、大規模なマンションだけあって、その運営は管理組合も管理会社も混乱し、居住者の数が多い分だけ日々の運営に追われてしまいます。
こういう混乱期において、織田信長タイプの理事長の存在は非常に心強いもので、実際に当時、多くの難しい案件をバリバリと解決していました。
当時の総会議案書を見せていただいたとき、
「これは私が出会った議案書の中で最も濃密なものだ」
と驚いたのを覚えています。
しかし、私が呼ばれたのは第3期。混乱期から、少しずつ安定期へ移行する時期でした。
当時は、同じく当時のブラウシア管理組合に比べると「理事役員同士がワイワイと話しやすいような雰囲気」とまでは言えない状況に感じました。
そして、混乱期を終えて安定期に向かうプロセスの理事会において、突出した一人が理事会をグイグイと引っ張る理事会運営は、その裏返しとして、多数の「低関心な理事」「一人の理事長に依存する役員」を作り出してしまう可能性を持っていました。
しかも、当時のブラウシア管理組合と同じく、理事の任期は1年で、通常総会が終われば全員入れ替わりでしたし、新旧役員間の引き継ぎも、自ら留任したこの理事長の「頭脳とパソコン」に保管されている状況で、なかなか他の理事へ伝わりづらい状態のように、私には映りました。
イニシア千住曙町は「突出した理事長が持っているものやアイデア・やりたいことを他の理事へ上手に説明し、自らが抱える仕事を(こなす能力があっても、あえて)手放し、理事会の会合で多くの理事が自由闊達に話しやすい雰囲気を作れば、理事会運営は大きく発展する」
という感覚が当時ありました。
まさに「改革・スピード」から「予防・合意形成」への転換期だったのです。
混乱期から安定期に向かうプロセスにおいては、トップダウンよりフラットな意見交換を経て多くのメンバーが参画する合意形成の手法のほうがうまくいく、と思っています。
そうです。「デキる理事長」「デキ過ぎる役員」「発言力のある理事」は、そのままでは理事会を、管理組合を「フラットな組織として」一度作った強さを継続させることはできないのです。
一人(または少人数の理事)がグイグイと突き進めば突き進むほどに、反比例して他の理事役員が「低関心」になってしまいます。
こちらのマンション管理組合は、分譲価格や現在の中古マンションの流通価格からして、都内で立派なマンションを購入できる組合員の集まりです。当然に個々の能力は高いはず。
個々の役員が理事会を構成するメンバーとして動くだけの「動機」さえあれば、活性化すると見ていました。
ここで、多くの理事役員が能動的に活動し、理事会が活性化するための「動機」付けにおいて、一番の課題は「デキる理事長」です。
一人の理事長の突出した問題意識や能力・発言力を、他の20名あまりの理事役員へ上手に伝えられて、各々が主体的に理事会活動へ参画するための「動機」を作らなけばなりません。
実は、イニシア千住曙町で当社がまともに提案したのは、この一つだけです。
「理事長が理事会で話す時間を1/3にしましょう。あとは聞き役に」
と。要は、他の理事役員も、心の中に「自分の意見・考え方」があります。それを披露する時間と雰囲気を作りましょう、と。
理事の一人ひとりが
「自分の意見を言って良いんだ」
「自分たちでマンションの管理を変更・改善できるんだ」
「皆で力を合わせば達成できるかもしれない」
という小さな動機が生まれ、少しずつ成功体験や達成感を積み重ねるうちに、理事同士の絆が深まっていくようになります。理事が一人ずつ、自分の仕事について積極的に向き合うようになり、理事会が活性化してゆきました。
これには、ここまで2年間戦ってきた信長理事長(略すると変ですね)の度量の広さがあって、私の少々!?失礼な物言いにも笑顔で受け入れて頂けたのが良かった。
ブラウシアと異なる運営プロセスは、ここからです。
まず、イニシア千住曙町管理組合法人では、理事会の役職を、明確に規定してゆきます。
これまでの運営経験から、必要なピース(役職)を明確にし、役職同士の仕事が被らないように配慮し、役職ごとに仕事のマニュアルを用意して、「この役職の仕事は、ミッションは、スケジュールは、ポイントは、、、」と、オリエンテーションがすぐにできる状態にし、新しい役員のスタートダッシュが容易になるようにしています。
次に、管理組合としての様々な運営を「ルール」「仕組み」として作り上げてゆきます。
時には管理規約や各細則の改定、時には新たなルール(細則)の制定、時にはマニュアルの作成など。
・将来的トラブルになりそうな潜在的な課題は予め取り除く
例:理事会役員の選定(輪番や立候補など)に関するルールなど
・同じような議題で何回も総会へ諮らなくて良いように一括決議しておく
例:消費税など国策で税率変更になる時に管理委託契約の金額等も同時に変更できる議案など
・今のうちにキッチリと決めておいたほうが面倒がないことは先に決めておく
例:理事会活動の内規、その他諸細則など
・引き継ぎが合理的にできるようマニュアルを作りルーティンにしておく
例:理事会引き継ぎ・collabo(マンション内SNS)やデジタルサイネージ等の運用方法など
このような観点から、次々とルールや仕組みができあがってゆきます。
後から順番で理事会役員に選任された住民が大きな混乱やトラブルなく役職を開始し、全うできるのは、これらのルールや仕組みを次々と立ち上げているからです。
一般的に、管理組合を「法人化しよう!」を考える理事会の動機は、
・管理組合として不動産を購入するため
というのがほとんどです。
例えば、隣地を購入して居住者用の駐車場にしたり、専有部分(マンションの一部屋)を購入して集会室にするためには、管理組合が「不動産売買の当事者」になる資格を手に入れる必要があります。管理組合という任意団体では、不動産売買の当事者になれません。
そのため、わざわざ「管理組合」を「管理組合法人」にしなければなりません。
しかし、イニシア千住曙町では、不動産を購入することが法人化の目的ではなく、理事長一人にすべての権限と責任が集中することの「リスク」と「負担」を軽減するために、法人化という仕組みを考えました。
マンション管理組合では、法律上「代表権があるのは理事長一人」であるため、管理会社や対外的な相手先のすべてが「理事長、理事長」と一人に話しかけてきたり、相談に来たり、書類を送ってきたりします。
これでは、素人である理事長だけが特別な負荷を課せられることになり、なり手が不足するだけでなく、理事長の力量に負うところが多く、組織力が発揮できません。
そこで、例えば、企業で代表取締役のほかに専務取締役・常務取締役などを設置するのと同じように、副理事長にも「管理者」(権限を持つ者)として、特定の分野において一定の権限を与えることで、理事長の責任と負担を減らすことができます。
以前のブログ「理事会でも最も楽な役職は「副理事長」」にあるような、責任も負担もない副理事長に、権限と責任を理事長からシェアする仕組みを作ったのです。
このことで、少なくとも副理事長(イニシア千住曙町では3名)にもマンション管理運営への関心と参画意識が生まれやすくなり、理事長が一人で孤独に案件を抱える体制から、チームで運営する体制へと改善することができました。
これらのように、イニシア千住曙町管理組合法人では、強烈な個性と能力を持つ理事長への一極集中体制から、理事会全員で考え運営する体制へと変化し、
・理事会役員の個々の役職や仕事の内容を定義し
・管理組合の運営を「ルール」「仕組み」で合理化し
・管理組合を法人化させることで理事長の権限と責任・負担を分散させ
たことにより、今では理事会が以前より活性化し、多くの理事が適度に仕事を分担し、チームとして活動できるようになっています。
その証拠の一つに、多くの理事役員や住民・管理会社を巻き込んで作られた動画
「恋するフォーチュンクッキー イニシア千住曙町Ver.」(動画)
があります。
理事役員間で想いを共有して、組織として役割分担を行い、協力しあわなければ決してできません。
単にコミュニティ活性とは言えない、理事会の組織力・仕組み作りの賜物です。
新築当時の混乱期から安定期に向かうプロセスで改革を推進した元理事長も、今では多くの理事仲間と一緒にダンスを踊り、今でも理事会役員の一人として仲間とともにバリバリと活躍しています。
仕組みと箱を作りながら「個」から「組織」へと上手に移行した好例です。
「最初に仲間ができ、後から仕組み(箱)ができた」ブラウシアと
「最初に仕組み(箱)ができ、後から理事が上手に適合できた」イニシア千住曙町。
理事会運営改善のプロセスはまったく逆ですが、両マンションが同じく勝ち取ったのは
・一貫性があり、かつ継続性を持った理事会
・住民を巻き込んでのコミュニティ活性
です。
そして、両マンションに共通するのは、
・最初は皆さんのマンションと同じ、普通の管理組合であった
・問題意識や想いを持った一部の住民がきっかけを作った
ということだと振り返ります。
両者が取り組みを粘り強く継続した結果、今ではテレビや新聞・雑誌・ネット媒体など多数のメディアに取り上げられ、管理組合運営の手本のようになり「ブラウシアの評判を聞いて購入した」「イニシアに住みたかった」と、これからの人口減の時代を迎えても人気の「勝ち組マンション」になっています。
マンションの中に「問題意識」や「住まいを良くしたい想い」を持った住民がいて、その住民が理事会役員になり、共感する住民(理事仲間)ができ、継続していく仕組みを作る、、、
あなたがもし「問題意識」や「住まいを良くしたい想い」を持った住民だとしたら、お住いの(お持ちの)マンションの管理運営は飛躍的に向上し、住み心地と不動産価値とを高める無限のチャンスがあります。
ぜひ、自分自身と、まだ見ぬ仲間(住民)との出会いを信じて、一歩を踏み出していただきたい、そう思います。
(了)
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