「今、候補に残っている4社のうち1社が、談合で報道された会社なんです」
支援先マンションの修繕委員会で、理事長がそう口にした瞬間、場に緊張が走りました。私たちメルすみごこち事務所が支援しているあるマンションで、大規模修繕の施工会社選定が大詰めを迎えています。
現在候補に残っている4社のうち1社は、最近報道された大手施工会社20社による談合疑惑で、公正取引委員会の立ち入り検査対象として名が挙がった企業でした。この情報は報道されたばかりだったため、委員会開始前に私から理事長へ共有し、あえて議題として取り上げてもらいました。
理事長はこう続けました。
「品質や工事内容に問題があるとは思っていません。でも、後から“どうして談合の会社を選んだの?”と住民に追求されるのはイヤです。」
この問いに、当社の修繕担当コンサルタントからは、「まず、契約前のご説明時からお話ししている通り、当社の仕組みでは談合はできないので、当マンションで談合による金銭的な損害をご心配いただく必要はございません。これはここまでご一緒に検討を進めていただいている皆様にはご理解いただきやすいと思います。」と言う前置きののち、「談合の内容は価格調整に関するもので、施工品質に関するものではありません。実際の施工能力、提案の中身を見て判断すべきです」と説明し、私は補足する形で、こういったお話をしました。
「とても安くて、おいしくて、評判もいいケーキ屋さんが、ある日、労働基準監督署がその店に入って、“従業員が働かせすぎだ”と指摘された。その話を聞いて、『じゃあ、もうこの店でケーキは買わない』ってなりますか?
談合の話って、実はこれに少し似てるんです。
『サービス残業なんて関係ない、安くて美味しければ買わない選択はない』という考えは十分成り立ちます。一方で、『コンプライアンス違反のある会社は支持できない』という姿勢も正しい。
正解は一つではないんです。
今回報道された談合問題は、“価格調整”に関する不正が問われているものであり、“工事の品質が悪かった”とか、“手抜きがあった”といった施工面での問題が調査されたわけではありません。つまり、施工品質や対応力そのものが否定されたわけではないということです。
あくまで業界全体の構造的な問題であり、そこは切り分けて冷静に判断しても良い部分だと思います。
実は、この問題をめぐって、他の管理組合でも同様の判断を迫られるケースが続いており、次のように様々に判断が分かれています。私たちは、この情報も冒頭の管理組合に共有させていただきました。
◉ 事例①:報道された企業を候補から外した組合
A管理組合では、「談合企業を候補に残すと、総会での説明が難しくなる」と判断。最終選考を前にその会社を候補から除外しました。
◉ 事例②:報道された企業を候補に残したが、選定しなかった組合
B組合では、「談合問題は承知しているが、内容をきちんと見極めたい」という考えで、最終選考まで報道された企業を残し、正当に評価したうえで、最終的により評価の高かった他社を選定しました。
◉ 事例③:談合企業を最終的に選定した組合
C管理組合では、報道に名前の挙がった企業を最終的な一社に選定しました。「品質・対応・実績を総合的に見て、この会社が一番信頼できる」との判断に至ったのです。
◉ 事例④:修繕工事を延期した組合
大型マンションのD管理組合では、費用の大きな修繕工事の施工会社選定を進めており、修繕委員会で選考した会社が、理事会承認を得るまでの間に報道で名指しされました。
今回の選考にあたり談合されている心配はないものの、総会から工事着工までの間にどのようなことになるか見通しが立たないため、総会への議案上程を見合わせることとしました。
排除するもよし、候補に残すもよし。
正解は一つではありません。
冒頭のマンション修繕委員会では、「談合企業を候補に残したまま4社を比較」する方針が決定しました。
「排除する」「初めから決め打つ」のではなく、公平な評価を重んじる管理組合の方針を尊重し、最終的な選択がどうであれ、その考えに基づいた納得のいく説明が組合員に伝わるよう、全力で支援することをあらためてお約束しました。
私たちの役割は、管理組合の選択を「選んでよかった」と思える結果へと導くことです。
迷いやすい局面も、納得と安心に変えられるよう、必要に応じて複数の担当者が役割を分担しながら、的確に助言・支援してまいります。